設計事務所の仕事とは・・・

登録されている一級建築士は29万(建築設計は30%程度)もいるそうです。
そういえば、親戚や友人の中に1人くらい建築士がいたような気がしませんか?
しかし、存在は知っていても、業務内容となると何なのか…模型を作って図面を描いて、格好イイ車で現場に現れる…というようなイメージだけで、なかなか実態を把握していただけません。
実際、施工依頼している工務店ですら専門が違うからと、あまり詳しくは知らないようです。
そこで、この場を持ちまして建築士や設計事務所を活用する手助けにしていただけたらと思い、『設計事務所の仕事』としていくつか紹介させていただきます。


職能分離の原点(監理業務)

設計事務所の最も大切な業務の一つに「監理業務」があります。
これは、契約した設計図書(設計図面+見積書)の内容どおりに、安全基準(建築基準法、消防法、建築工事共通仕様書など)に準拠して施工されているか、建物を監理するものです。
設計者にとって、施主にとっても、施工者はパートナーなのですが、品質管理のために疑う事を前提としたシステムです。

スーパーゼネコンを筆頭に、設計施工が当然のように行われていますが、本当に大丈夫なのでしょうか。

当たり前ですが、施工会社は工事現場から収益を上げています。
同じ社内にいる設計部社員の給料を、現場が稼いでいるのです。設計部は工期を遅らせるような指示を、品質管理のために下せるのでしょうか?
昨今は企業倫理が確立されているため、膨大な債務返済よりも品質確保が優先されているに決まっていますよネ?
また、契約による施工者に義務付けられた検査報告書提出がありますが、第三者機関に依頼しなくてはなりません。

しかし、発注者は施工者なのです(施工者が工事請け負い金額から検査機関に報酬を支払う)。
施主や設計者ではありません。

話は戻って、施工者にとって工期内竣工は絶対条件です。
そのため、多少の雨天でもコンクリート打設をしたり、工程が狂うと帳尻合わせを行ったりと、限度内であれば品質低下も仕方ないと・・・現場主任(監督)も社員ですし、そんな考えを持っても当然だと思いますが、いかがでしょう。

施工とひと口に表現しても、土工事・地業工事・鉄筋工事・コンクリート工事・鉄骨工事・防水工事・タイル工事・木工事・屋根工事・左官工事・建具工事・塗装工事・内装工事・・・電気工事・設備工事・・・と非常に様々な業種から成立しています。

これらの全てを意匠設計事務所(弊社)だけで監理するのは困難です。そのため、構造分野はパートナーの構造設計事務所へ、設備であればパートナーの設備設計事務所へと、それぞれのスペシャリストへ設計+監理を委託しています。
工事が始まれば現場の定例会議へ出席していただき、特別な検査日にも必ず立ち会っていただきます。

このように『職能分離の原点』に立ち返り、設計+監理と施工とを分けることで初めて品質管理ができると考えています。
また、昨今では設計者に問題がある事件もありますが、施工者が設計者を発注する形態になってしまった点に原因の一端があるように感じます。
ここでも、施主から設計者と施工者をそれぞれ発注することで、対等に職と能とを発揮できる仕組みを活用すべきではないでしょうか。


敷居が高い(設計料)

よく耳にするフレーズに「設計事務所は敷居が高い」がありますが、意図する内容としましては、「私の住宅(生活)ごときに、わざわざ建築士を頼まなくても一般的な箱で十分」というニュアンスと、「施工費以外に、別途費用を負担するのはイヤ。できれば設計施工で設計料はサービスが良い」の意味が含まれているように感じます。
どちらかと言うと、後者の意味合いが強いのか「設計料は高そうだから」というフレーズもよく耳にします。

住宅の場合、総工費の8~10%程度が設計+監理=報酬料として計上されますので、新車が1台か、豪華なシステムキッチンを購入できる程の金額になるかもしれません。

では、設計施工の会社が設計事務所と同じ業務内容を、無料で提供することは可能なのでしょうか? 
本当だとしたら、専任の建築士が無償で会社へ貢献しているとか、スーパー建築士が一度に何十件をも掛持ちして少ない工事経費をサポートするなど、素晴らしい会社に違いありません!

しかし、残念なことに設計関連に掛かる費用を工事費内に判りづらい項目として乗せているか、全体へ按分して溶け込ませているのが現状なのです。
何故なら、工事費には定価がありませんので、同じ設計でも施工会社や担当により金額が変わりますし、時期によっても変動するのです。
そのため、実勢価格を精査するのはかなり難しい作業となります。

そこで、適正価格をジャッジするために、同じ設計図書を元に複数社から見積もりを取って比較します。
このシステムを「入札」といい、見積もり内容と金額から設計に対して安心した施工を依頼できる会社を選出いたします。

無理のない範囲の競争原理を元に純粋な施工費を算出すれば、各社に隠れていたであろう費用や、高値と決定価格の差額から、8~10%程度の金額は簡単に捻出できてしまいます。
これで、設計事務所に依頼してもしなくても、掛かる費用が同じであることが判りました。
後は、設計業務内容によって好みを選択すればよいのではないでしょうか。

施工会社の選出には、会社から敷地までの距離、過去の施工実績、設計事務所の評判、財務状況などを注意しています。
さらに、依頼者からも入札参加社を1つ紹介していただき、公平を規するようにしています。

 


安全と安心(工事監理)

ここでは、「安全」と「安心」をどのように確保するかの観点でお話したいと思います。
外見上は同じようなもので、内情は建物ごとにより様々です。
機械が画一的に作るものではなく、個性のある職人の技に依存する部分も多いのです。

「職能分離の原点」でも触れましたが、立会い検査、抜き取り検査、納品書の確認を「安全」確保のために行っています。
どんな施工者であろうとも、正確な設計図と厳しい工事監理の元では、手抜き工事ができるハズがないからです。
と言い切りたいのですが、建物を隈なく隅々まで工事過程に合わせて、検査→指摘→再検査を行うのは膨大な時間と費用が掛かり、実質的には不可能だと思います。
また、施工も検査も人が行いますので、グレー部分も少なくない気がします。
悪意を持って言い換えれば、写真撮影部分や検査部分だけをきちんと施工さえしていれば、残り部分は誤差範囲内で合格と処理されてしまう可能性はなくなりません。 

友人から、入居している建物の安全性を問われる事があります(私が全く関与していない建物)。
安全性については、設計図書(特に構造計算書)、保証書類、各検査報告書、ミルシート(鉄筋や鉄骨の出所を証明する納品書)、工事管理報告書(隠れてしまう部分の配筋写真・配管写真を含む)を用意の上、検査機関に依頼すれば結果がでます。
もし、書類一式もないような古い建物であれば、破壊検査を含めた検査を依頼するのもよいでしょう。
現在の基準で評価しますので、不足があれば指摘を受けるでしょうし、そうでなければ安全かもしれません。
と、残念ながら「安心」を与えるような返答はできませんでした。

経験則として、施工会社の規模や実績、財務状況からだけでは、建物を評価することはができないことが判りました。
工事主任(現場監督)の性格や気質が一番大きく、建物の品質に関与するのです。
散らかった現場ではダメ直しの多いそれなりの物となり、良いとされる関連工事会社も段取り悪さで、能力を発揮できません。  
そんな工事主任にお願いできれば、要点を抑えた監理ができますし、竣工後も「安心」した生活を送れます。数年後のメンテナンスでも軽微で済むことでしょう。

少々、話が遠回りしてしまいましたが、プロから見る「安心」とは施工者の顔と思想が明快なことなのです(勿論ハイレベル)。
そのため弊社では、施工会社選出の際には担当の工事主任とも、経歴だけではなく面接ができる体制で臨んでいます。

 


オートクチュール(設計内容)

建物の設計を依頼すると・・・建築家先生の奇抜デザインの餌食になってしまうのではないか・・・使い勝手は大丈夫?雨漏りは大丈夫? 
こんなイメージを持たれている方が意外にも多いのでビックリ! 
さらには、建築士でも施主の建物は自分の作品だと主張する者も少なくないのがビックリ! 
どんな建物であっても、以下の項目が最優先されますので、大きな問題になる筈がないのですが…実状は異なるのでしょうか?

1. 使用者の生命と財産の保守
2. 耐震強度の説明とレベル選択
3. 建築基準法・消防法・条例・協定・予算の厳守
4. 依頼者(使用者)の使用目的を調査・分析 

さて、使い勝手のよい・気に入った建物を入手するには、どうすれば良いのでしょう? 
車のように、雑誌やカタログから性能・評判などを比較して、ディーラーで試乗・値引きを行って購入できれば良いですよね。
しかも、数年で買い替えができれば・・・◎。

バブル崩壊前であればインフレが常でしたので買い替え戦略も選択できたでしょうが、30~35年ローンが一般的な現在では車のように「とりあえず」の購入もできなくなりました。
昨今では車・服・食事・・・と、様々な商品のラインナップが広がり、選択肢も増えています。
大衆的流行よりも各自が満足できる、使いやすさ・心地良さに重点を置いて、自分らしいスタイルを求めるようになってきたのだと思います。

しかし建物になると、~風のマンションや建売住宅、~LDK、投資用物件・・・と、販売側の用意するラインナップは非常に貧弱なのが現状です。
大理石の玄関・ディッシュウォッシャー付キッチン・バス乾燥機搭載・・・など、本質的な生活に目を向けたものは皆無といっていいでしょう。

個人住宅であれば、食事や食器の趣向からキッチンのスタイルが検討され、リビングやダイニングも使い方によっては1つの方が便利かもしれませんし、人数や持ち物、趣味などによっても収納量や方式も変わって当然です。

集合住宅においても、多様性や変化に対応できる基本システムとして、防音・断熱・プライバシー・・・を提供するだけで、入居者は自身のスタイルを作ることができます。

パブリック的要素が含まれる店舗・オフィス・医院・・・などにおいては、社会に対して自身のスタイルを示し、サービスの対象を広げたり限定したりすることも可能です。

条件や予算によっては、全てを叶えるのは難しいかもしれませんが、優先順位を明確にした、自身のスタイルは心地よいに違いありません。
なかなか買い換える事ができないだけに、体型に合わせた、自分を表現できるオートクチュールを手にしてはいかがでしょうか。


一級建築士&一級建築士事務所(疑問)

「耐震計算偽装事件」以来、一級建築士の資格が注目されるようになりましたが、報道などから察すると一般的なイメージと実像との間には、かなりの隔たりや誤解があることが分かりましたので、一級建築士事務所である弊社と併せて、実態を紹介いたします。 

建築士には、国土交通大臣から免許を受ける一級建築士と、都道府県知事の免許を受ける二級建築士とがあります。
どんな建物でも(原則的に)、建築確認申請が建築主事により受理され確認済証が発行されなくては建物を建てることはできません。
その建築確認申請書類を申請できるのが建築士なのです。
一級・二級・木造の違いは、建てられる構造や規模・種類として認識していただければいいでしょう。

づぎに、個人・法人でも設計・工事監理を業務として行うためには、建築士事務所登録(一級・二級・木造)が必要となります。
弊社の場合は、私が社長であり一級建築士なのですが、とある有名建築家の安○忠○さんも社長ではありますが一級建築士ではありませんでした(現在は功績から資格を授与されました)。
要は、開業するためにだけ建築士が必要なので、会社として建築士を雇えば設計業務を行えるのです。

目立つ大きな勘違いとしまして、一級・二級・木造建築士(以降一級建築士)が設計業務の全てを行うとして捉えられている点です。
一級建築士には、総合的な知識と公正な判断力が必要になりますが、現在の建物には規模・機能・安全性などの観点から、さらに細分化された専門知識が不可欠です。
そのため1つの建物の設計には、大雑把に分類して、意匠設計・構造設計・設備設計(それぞれに専任の登録一級建築士がいる)のスペシャリスト達で行います。
ですので、資格があり常識的な判断はできるものの、全ての分野において万能という訳でもありません。
ちょうど、医師免許を持つ内科の先生が眼科における専門知識を持ち合わせていないような感じでしょうか。

弊社は上記の分類では意匠設計の担当になりますが、施主の要望・予算・法律を軸に計画を進め、デザインに合わせて構造・設備と協力して設計を行います。
最近の報道では、経済的な判断から構造設計事務所を下請け扱いしていますが、構造・設備共に設計は対等で、互いの存在から新しい解決策やデザインが生まれる大切なパートナーです。
意匠設計事務所とは、イメージする音を奏でるオーケストラの指揮者のような存在であると考えていただけば幸いです。